4.社会システムの実験例

といっても、まだ始めたばかりで発表する段階ではないのですが、社会システムの試みの具体例として紹介します。
私は人間という生きものに興味があり、また4歳の子どもを持つ父親の関心事ということもあって、研究テーマとして「子どもの成長とは」ということ考えたいと思っています。
子どもの成長については、現在までに様々な研究が行われています。またそれに基づく教育方法や実践方法もたくさんあります。しかし、子どもの成長や教育を考える上で、最終的にどういう人間像を目標にして子どもを育てようとしているのかを明らかにしておく必要があるのではないでしょうか。ここで目標とする人間像を考えてみた場合、人間として生まれてきたのであるから、どんな社会状況においても変わらない、人間らしい正常な姿があるのではないかと考えています。例えば、最近は国際的に通用する人になるためにとか、今の混乱した社会を生き抜けるようにとか、よく耳にしますが、それはいったいどういう人のことなのでしょうか。英語をしゃべられる、バイオリンが弾ける、学校の成績がよい、野球がうまい、友達がたくさんいるなど、確かにすばらしいことだと思いますが、そういう面だけで子どもが正常に育っていると言えるでしょうか。子どもらしい、人間らしい正常な姿とは、どういうものなのでしょうか。私は特に人間らしさの一面である知能や思考について焦点を当てて、《人間社会科学研究所》の会員としても研究してみたいと考えています。
さて、昨年秋に市民活動として《すずか子ども研究会》が設立され、私も参加しています。子ども研究会では、子どもの知能面、精神面、技能面、身体面、また個体レベルから社会的レベルまで、各成長段階において、様々な角度から研究することを目的としています。参加者も《日常生活・社会活動》の中から、例えば保育園や幼年部、学童保育などで実際に子どもにかかわっている人たちや母親・父親の立場から、子どもに関する現実的具体的な研究テーマを持ち寄って話し合い、検討しています。子どもに関して言えば、《保育園・学童保育》《子ども研究会》《人間社会科学研究所》という3つの要素が、どのようにしたら社会システムとして機能していくかを考えてみると、最も重要な点は、《子ども研究会》が教える・信じる方式ではなく、研究、検討されるかどうかにあると思います。研究会で検討し合う内容が、単に子育て理論や子育て方法を教えたり覚えたりして、それを実行するというのではなく、また《人間社会科学研究所》で行うより専門的な研究課題なども、参加者一人一人が納得のいくまで意見を出し合い、検討し究明することを通して見い出されたものが、実際に子どもと接するときに使いものになる質になるのではないかと思います。以前、子どもとのコミュニケーションについてのセミナーに参加したとき、講師の方が、「子どもの話をよく聞く事、聞いて共感することが一番大切です」と言っていました。そのことの意味や聞くとか共感するとはどういうことかを検討することもなしに、話をよく聞くぞ、共感するぞと思ってやっていても、本当に子どもの話を聞くことができるのか、共感することができるのか疑問が残ります。でも実際には、「こういうことが大事なんだって」とやろうとするが、あまり調べることをしないという例は案外多いのではないでしょうか。
すずか子ども研究会の会員の感想に、研究会に参加するようになって、子どもの中に入る前によく観察するようになった、自分はどういう子ども像を描いて子どもを保育しようとしているのかを考えるようになった、子どもの様子を見て思ったことを大人同士で話し合うだけでなく、子どもが実際どう考えて行動しているのかを子どもと話すようになったなど、何かしらの変化が見られるようです。研究会への参加がもたらすこのような変化がどういう実質のものなのか、また子どもにどのような影響を及ぼすのかということも今後の研究対象です。子どもの発育に対する大人環境の影響はとても大きいです。研究会で検討することを通して、大人自身も人間としての正常な見方、考え方をする練習をやりながら、子どもが正常な発育をするための理論を知り、具体的方法を実行することで、はじめて子どもにも有効な意味あるものになるのではないかと思います。
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