心の解明に向けて―心をどう捉えるか

第32回研究所サロン

テーマ 心の解明に向けてー心をどう捉えるか

一、はじめに
二、心という言葉―その使われ方
三、心の捉え方(自分の体験から)
四、心の現象面について
五、心(そのもの・元の心)について
六、心の成長
七、心を関係の中で捉えるー心を関係的存在として捉える
八、人生―人の体験―心の体験―心の状態の形成
九、社会と心―社会の状態と心の状態
十、<健康正常な社会の状態と健康正常な心の状態>の実現


一、はじめに
・人としての本来的な心の解明が主眼
・人としての本来的な心を解明するために、先ず心についての自分の知識や心に対する自分の捉え方を振り返り整理してみる


二、心という言葉―その使われ方

物と心、身体と心、人間は心を持つ、動物には心があるか?
心の時代、心が大事、心の世界、心の状態、心の健康、心の病気
他人の心を理解する、自分の心に聞く、心にもないことを言う
心が美しい、心がきたない、心が豊か、心が貧しい、心があたたかい、心が冷たい

以下、「心」の成句(広辞苑より)
心が洗われる、心が通う、心が軽い、心が挫ける、心が騒ぐ、心が沈む、心が通ずる、心が弾む、心が乱れる、心に浮かべる、心に懸かる、心に適う、心に刻む、心に染みる、心に留める、心に残る、心に任せる、心を痛める、心を入れ替える、心を打たれる、心を移す、心を躍らせる、心を傾ける、心を決める、心を砕く、心を配る、心を汲む、心を籠める、心をそそる、心を掴む、心を尽くす、心を留める、心を悩ませる、心を開く、心を閉じる、心を許す、心を寄せる、・・・(65項目)

以下「心」の熟語(漢和辞典より)
安心、心配、本心、中心、核心、居心地、着心地、一心同体、一心不乱、以心伝心、親心、女心、恋心、悪心、関心、感心、苦心、執心、小心、心情、心底、用心・・・(238項目)

以上、どの言葉(表現)もその意味は大体わかる何となくわかる。ということは心というものを自分なりに捉えている、心という言葉の意味を自分なりに理解している、でも「心とは何か、心とはどういうものか」説明しろと言われても、困る


三、心の捉え方(自分の体験から)

・自分の体験の中で形成されてきた心の捉え方

(以下体験談
心というものについて、本当に自分が関心を抱くようになったのは、ここ何年間かのことかなと思う。

それまでも、心という言葉を使ったり、本心という言葉も使ってきた。たとえば、自分はそのことをしたけど、本当はやりたくなかったとか、本心はこういうことをしたかったとか、つまり、うどんを食べたけど、本心(本音)はラーメンを食べたかったのだというように、心とか本心というものも自分の意識の範囲内のもの、自分の意識できるものとして捉えていた

自分が意識するしないに関わらず、自分の中にも本心というか人としての本来的な心がある。そんな感触を得たのは内観コースに参加したときからだと思う。

内観では自分の中を観ることに集中する。主に過去の記憶を呼び起こすということをする。そういう中でいきなり当時の自分の中の気持が蘇ってきたり、本当はあのときこういうことをしたかったのだと今になって気づいたり、人や自分の体験に対する見え方捉え方がまったく変わったりと、とても新鮮な感じがして、自分の日常の意識では捉えられない世界が自分の中にある。そんな感触があった。

自分の本心というのも探ってみなければわからない、自分の心の世界についても、自分の意識では捉えられない部分が多いのでは、と思うようになり、心というものに関心を抱くようになった。そういう中で、自分に意識される心の現象面と心そのものというか元の心という捉え方が、自分の中で形成されてきたような気がする

人生を知るためのコースの中で、<自分の本心、心底は?>と、自分に問う、自分に聞くということを体験して、自分の中の本心を観ながら、「自分の本心は?」と、いつも自分に問いながら、自分の本心で生きていきたい、そんな欲求が自分の中に出てきた。人の目を気にしたり、あり方に縛られたり、そうするのが良いとか、そうすべきだとか、そういう観念(観念的なもの)で動くのではなく、自分の本当の正直な心や気持で行きたいという欲求が出てきた。もちろんいろいな状況や環境の中でのことだが、いつも本心で生きるというのを自分の生き方にしていきたい。そんな欲求が自分の中に出てきた。

心の解明ということでは、自分の中にもある人としての本心(人としての本来的な心)の解明ということが主眼だが、そのためにも前もって見ておくこと、考えておくことがあるような気がする。そのあたりを整理してみたい。)

・「心(そのもの・元の心)と心の現象面」という捉え方
・自分の中にその時々で現れてくる思いや考えも、欲求や意志も、感情や気持も全部、心の現象面
(図1参照) 


四、心の現象面について《図1参照》

・心の現象面は、観察される(意識される)
(知情意―知性と感情と意志。人間の持つ三つの心的要素。「広辞苑より」)
・知情意は、それぞれ別個にあるわけではない、相互に絡み合っている
(たとえば意識のされ方はさまざまだが、○何か考えているときにも楽しいとか気分が重いとか何らかの感情や気持はある○何かの意志のもとに考えを進めている○悪感情からの考えもある、などなど)

・心の現象面は、絶えずいろいろに変わり、いろいろに動く
(自分の中を観たらわかる。たとえば○うきうき・ざわざわ・どきどき・心ときめく・心騒ぐ・心乱れる・心落ち着く・心が重くなる・軽くなる・・○何か難しいことを考えているとき、空腹を感じ、今日の晩飯はなんだろう?と考える○長いスパン(時間の幅)では興味関心欲求も移り変わっていく、心移りする、心変わりする、などなど)

註、知能(考える)も心の働きとして捉える
  欲求や興味関心や目的などが知能を働かせる(考える)動機となる
  欲求や興味関心や目的は心のこと、知能も心の働きではないか


五、心(そのもの・元の心)について(図1参照)

・心そのものは、観察されない(意識されない)
・心は精神活動(知情意の働き)の主体とも言える
・心は、考える主体、意志する主体、感じる主体、言動する主体
(主体―元来は根底にあるもの、基体の意「広辞苑より」)
・心は人の核心的部分、人が生きていることの核心的部分
・心そのものも固定することなく、その状態は変化する
・心の状態が変わると、心の現象面も変わる


六、心の成長

・人の成長は心身(心と身体)の成長
・人が成長するとは、人としての心身の本来的な構造(かたち)や機能(はたらき)が成長すること(遺伝的な形質がベースになる)
・人は心身ともに、親や周囲の人の愛情や世話を受けて育つ
・心は、身体の成長をベースにして成長する

身体の成長―日光空気栄養摂取などによる、身長体重の増加、身体全体の運動能力の向上、身体各部各器官(消化器系・呼吸器系・循環器系・中枢神経系など)の構造(かたち)や機能(はたらき)の成長発達

心の成長 ―心は、目に見える形や、測定できる大きさや重さを持たないから、心の成長は、身体のようにはハッキリと捉えられないが、身体の成長をベースにして、心の機能的な面が成長発達するというプロセスはあるのではないか(心の機能―感覚・知覚・認識・理解・思考・欲求・意志・感情・自己意識・自覚・観念化・概念化・言語・記憶などなど)


七、心を関係の中で捉えるー心を関係的存在として捉える

・これまでは心というものを取り出して、心とはどんなものか観るというスタンスであったが、これからは視点を換えて、心を関係の中で捉えてみる

・人は環境に包まれて生きている(乳幼児を見るとわかりやすいが、大人でも同様ではないか)
・人はその環境と密接な関連の中に生きており、環境からの影響を受け、また環境に影響を与えている

・人の心も身体も環境に包まれている
・人の環境には物質的自然的環境と人的社会的環境の二つの側面がある
 
物質的自然的環境―物質で構成されている
ex.空気水日光・気象条件・衛生状態・地理的地形的環境・食物環境・環境破壊・環境汚染・・・(図2①参照)

人的社会的環境―人で構成されている
ex.周囲の人とその言動・人為的な事件や事故・親子関係や友人関係などの人間関係・家庭環境・学校環境・職場環境・地域環境・社会の機構制度・法律規則・風習慣習・言語環境・文化環境・思想環境・・・

・人の身体は物質的自然的環境に包まれている(図2①参照)


・人の心は人的社会的環境に包まれている(図2①参照)


・人的社会的環境は人で構成されている
・人の心は、他の人の心、他の人の感情や気持・欲求や意志・思いや考えなどに包まれている(他の人と言葉や行動を通して、気持や意志や考えのやり取りをしている)
・人の心は、その社会における人間観や社会観、価値観や善悪観などに包まれている(家庭・職場・地域・機構制度など、その社会における人間観や社会観や価値観や善悪観などで構成されている)
(図3参照)

このように考えてみると
・心を人間関係や社会から切り離して捉えることはできない
・周囲の人や社会の中で形成され、また成り立っているということが、心にとって本質的なこと
・ここでは、心を関係的な存在として捉える、

註①、関係的な存在という意味は、別個のものがあって、それが関係するというより、一つの関係性(繋がり)があって、どの人の心もその関係性(繋がり)の中にある(存在する)という捉え方

註② 今ここではとりあえず、身体と心、物質的自然的環境と人的社会的環境というように分けて捉えているが、それも人間の捉え方(分け方)であって、もともと別個にあるわけではない。


八、人生―人の体験―心の体験―心の状態の形成

・人生は具体的な体験の連続(連鎖)
  ex.地震体験・事故体験~日々の体験
・人の心(の状態)も、人生における具体的な体験の連続の中で形成される
・人の体験は環境の中で起こる
・人の体験は心の体験(今は人の体験における心的側面に着目する)

・心は、環境の中で環境から受けたもの(刺激・情報・他からの働きかけ)に、反応する
・人の体験→心の体験→心の環境に対する反応
(思い考え感情気持欲求意志などの心の現象面は、体験の中で現れる心の応、)
・また、心は環境(周囲の人と社会)から受けたものに対して反応して、環境(周囲の人と社会)に対して行動(働きかけ・作用)を起こす

環境(社会)→受ける→ {心→心の反応(心の現象面)→言動}→
働きかけ作用→環境(社会)→{心→心の反応→言動}→環境(社会)→・・・・・・

・心と環境(社会)はこのような循環システムになっている
・このような循環システムの中で、心の状態は変化し形成される
・心の状態の変化に応じて、心の反応や言動も変わる

・補足
心の状態 ex.健康正常な状態とそうでない状態(心の病気・心の傷・心の歪み・・)
身体の状態 ex.健康正常な状態と、そうでない状態(病気・負傷・機能不全・虚弱体質・・)

・心も身体も、その時々の状態があり、その状態は環境によって変化し形成される
(健康正常な状態←→そうでない状態)
・また、人為的な条件や心や身体への意識的な働きかけによっても変化し形成しなおされる

身体の状態―治療・栄養や生活様式や生活環境の改善・運動などによる健康管理などに変化し形成しなおされる
 
心の状態―人間関係や社会環境を変えること・自分を知ること(自覚的に自分の状態を明らかにする)・各種精神療法(内観療法など)・各種自己啓発法(内観法など)などにより変化し形成しなおされる

註、心身の成長は基本的には元(逆)には戻らないし、戻せないが、心身の状態は不健康な状態から健康正常な状態へと戻ることもあるし、方法によって戻すことができる


九、社会と心―社会の状態と心の状態

・人の核心的部分は心
・人は心で生きている(とも捉えられるのではないか)
・人の生き方は心の状態の現れ?

・心の状態は、周囲の人や社会の中でその影響を受けて形成される
<周囲の人や社会の状態>と<人の心の状態>には密接な繋がりがある

・心の状態の形成は、本能的なものや遺伝的なものをベースとして成されるし
育つ環境の異いや親からの遺伝などにより、ひとりひとり異うという面もあり、社会の状態即心の状態とはもちろん言えないが、社会の状態が、ひとりひとりの心の状態に大きく影響する

・たとえば、今の社会の状態を表現してみると(一面のことかもしれないが)
社会の状態―個別的・利己的、対立・競争、上下・差別、能力主義、優劣評価
      法律・規則、束縛・規制、権利・義務、責任、契約、取引・・・
(このような社会の状態は決して正常とは言えないのではないか・・)

・このような社会の状態の中で形成された心の状態は?

・心の状態そのものは直接表現できないが、心の現象面にいろいろな傾向や感情があらわる
ex.個別利己的、対抗的、競争的、上下感、上昇志向、優越感、劣等感、勝ち負け感、比較感、人の評価を気にする、人の目が気になる、妬み、僻み、被害感情、孤立感、孤独感、不信感、不安感、心配、義務感、権利意識、責任感、束縛感、・・

・ちなみに、生まれたときには、このような傾向や感情はまったく無かったはず、育つ過程で、親など周囲の大人(社会)から受けたもの
(このような心の傾向や反応なども、決して正常とは言えないのではないか、心の歪み?・・)

・このような傾向や感情は、その人の欲求や意志・思いや考えに、さらには言動にまで浸透している(制限《枠》を与える)、
ex.怒りや悲しみの感情なども増幅される、
   競争意識からの欲求欲望もある
   上昇することに絶えず頭を使う
   人の目をいつも気にして行動する
   復讐のための人生
   etc.

・少し単純化してみると
上下社会(上下観)→  心の状態 →上下感・上昇志向
競争社会(競争原理)→ 心の状態 →競争意識・対抗心・勝ち負け感
評価社会(能力主義)→ 心の状態 →優越感・劣等感・人の評価(目)を気にする

・このようにみると、社会の状態が心の状態を作るとも言えないか

・個々の人の心の状態や反応は、それぞれ異うし、また意識のされ方もまちまちであるが、どの人の心の状態も、その人の暮らす社会の状態を反映している

・また、心の状態が、社会の状態を作る要素になるのではないか
 社会の状態    →心の状態  →心の反応・言動 →社会の状態の一部

・社会の状態と心の状態(人々の心の状態)は循環システムを成していると捉えられる  (図4参照)


註、次のように捉えることもできる
人の中の上下観→ 上下社会(社会の状態)→ 人の中に上下観を作る
人の中に上下観があって→ 人に接するときに上下感を感じる
人の中の  上下観(観念状態)←→心の状態

上下観、善悪観、価値観、人間観、社会観etc(観念状態).←→心の状態


十、<健康正常な社会の状態>と<健康正常な心の状態>の実現

・<社会の状態と心の状態の健康正常な循環システム>の実現
①社会の状態と②心の状態の両方に着目する必要がある

①個別的利己的対抗的競争社会からコミュニティー的共存共栄親和融合社会へ変革する
 
 コミュニティー的共存共栄親和融合社会―上下なし、差別なし、対立なし、
競争なし、勝ち負けなし、優劣なし、規則規制束縛なし、権利義務責任なし
契約取引なし・・自由、個性尊重、持ち味発揮・・人と人の共存共栄親和融合を基本とする社会

②自分を知るー自覚的に自分の心の状態を明らかにするー正常でないことを自覚すれば、心の自然治癒力(自浄作用)により、健康正常な方向に向かう
 
 健康正常な心の状態と反応― のびのび、はればれ、自由、囲いなし隔てなし、他と溶け合う、他と保ち合う、義務感なし、権利意識なし、不安なし、心配なし、孤独なし、勝ち負け感なし・・
 
註、心の自然治癒力(自浄作用)―身体には自分(人間)の意思とは別にいつも健康に生き続けようとする作用があって、傷病に対して自ずと自然治癒力が働くように、心においても、自分(人間)の意思とは別にいつも健康に生き続けようとする作用があって、自分の正常でない不健康な状態を自覚できれば、自ずと健康正常な方向に向かう

・社会の状態と心の状態の健康正常な循環システムが実現されることで、人としての本来的な心が発露し発揮される、そして心の反応(現象面)や言動も人間性(人間味)溢れるものに・・・

・人としての本来的な心で構成される社会が健康正常な社会と言えるのではないか?

さて、人としての本来的な心(本心)とは?・・続く

補足、周囲に反応して、人としての本来的な心からストレートに浮かび上がってくる純粋な気持や考えや意志というものがあるのではないか

ex. わが子に限らず、幼子をみると可愛く思う
   母親が子育てに専念する姿に、人としての本来的な心を感じる
   人が危ない状況にあるときに、自然と身体が動いて助けようとする
   親し人と別れる寂しさ、親しい人の死を悲しむ
   親しい人といると安心、本当は誰とでも仲良くしたい

心の現象面だけをみて、一概に言えるものではないが、人としての本来的な心(本心)があって、そこから自然と発露してくる現れというものもあるのではないか、そういうことを一般論ではなく、自分を観て、自分の心にも問うことをしながら、明らかにして行けたら・・・
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