内観コースに小学生を受け入れて Ⅶ

 実は今回の内観コースの子供の参加者は最初は2名だった。もう一人の子も小学校5年の男の子で母親に勧められたということもあるが、自らの意志での参加であったと思う。その子の場合は内観を体験するのは初めてのことだった。

 サッカーの試合が終わってすぐにお母さんとともに会場へ駆けつけての参加だった。少し疲れていたようでオリエンテーションが終わった時点でとても眠そうにしていたので、1・2時間寝てから内観をはじめてもらった。

 その子は初めての参加で、また大人の人と一緒で緊張もしていたのか、オリエンテーションの時にはずっと下を向いていた。内観の仕方などについての説明が伝わったのかどうかも皆目見当がつかなかった。
 
 でもこの子との最初の面接は心に残っている。眠りから覚めた時点でもう一度調べるテーマを確認してからほぼ一時間後の面接であったが、お母さんに対する小学校低学年までの自分について三つのテーマで思い出したことを報告した。小さな声でぼそぼそと話すという感じで、話も短いものだったが話す内容は何かとても具体的で、その子がお母さんとの実際の場面を思い出して報告しているなと思った。このあともこんな感じでいけたらなと思った。

 結局その子はその日の夕方お母さんと一緒に帰った。シーンとした静かな部屋で、しかも屏風の中、そばに誰もいなくてとてもさびしかったようだ。でも、今までの自分のことを振り返って思い出すことは嫌ではないとのことだった。

 自分の意志での参加であったにせよ、実際に参加してみて話に聞くのとまた違う印象も受けただろう。その子の中身は結局わからないが、自分の中ではこの子も内観はやれるなとなっている。一週間通して参加した子と半日で帰った子、まだ2つだけの事例にすぎないが、ともにこの年代の子も内観はできるなという自分の中の確信を強めるものであった。でも子供の場合、大人とは別の受け入れ方や環境の用意が必要だ。

 内観コースへの小学生の初めての受け入れということもあり、少し整理しておきたいと思って書き始めたが、自分の中に次から次へといろいろな思いや考えが浮かんできて、ちょっと収拾がつかなくなってきた。子供の受け入れということで自分が思った以上に自分は刺激を受けたようだ。子供たちの実際の中身を他所(よそ)に・・・(終わり)
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内観コースに小学生を受け入れて Ⅵ

 一方、子供にとっての内観体験をどう見るかということも、もう少し鮮明にしておきたいところだ。研鑽ライフセンターで、子供の内観を企画用意するとしたら、主眼はやはり研鑽の体得ということだと思う。いや正しくは研鑽体得の準備ということになるだろう。研鑽体得の準備として子供自身がやるべきことは、やはり自分を観る(客観視する)目を養うということだと思う。

 自分の気持や考えをそのまま(客観的に)観て捉える(自覚する)ことが研鑽の出発点だと思う。そのことの認識なくして、またそのことを外して、いくら「考えられる子に(研鑽できる子に)」と願っても知識や理屈の多い子を作るだけで、研鑽という知性の本来的な発揮は期待できないと思う。今の自分たち大人程度の人間を増産するだけだと思う。

 子供時代にいかに自分を観る目を養うかがポイントになると思う。その目的で内観法を活用する。そういう意味では現行の内観コースの形式にこだわることもない。もっといろいろな方法を考案していけるのではないか。

 教育現場においても内観法が有効であり、さらに学校に導入する必要性は古くから言われて来た。たとえば吉本(内観法創始者)は、一九七七年に愛知県高等学校生徒指導研究会名瀬地区教育相談部会主催の講演会で「高校の内観」と銘打って「内観の目的」「内観の仕方」等を教員に紹介し、特に学校に内観法を導入しようとした失敗例までも紹介している。そこで冒頭に言われたことは「昭和四十年頃、五ヶ所の学校でやって下さった。内観を専門道場並に学校でやろうとして失敗した。内観クラブとして、剣道や柔道、野球、卓球クラブのようにクラブ活動としてやっていればよかった。私が欲をかき過ぎた」とある。・・・吉本によれば内観研修所で行われている集中内観を学校現場でその形態のまま取り入れることに問題があったと言われる。(以上「中学校における日常記録内観の実践・斉藤浩一」より抜粋)

 吉本氏が「内観クラブ」ということでどのようなものを具体的に描いていたのかは、これだけの文章からは窺い知ることもできないが、内観法にはその本質を外さないでいろいろな形で活用される可能性が秘められているように思う。(続く)
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内観コースに小学生を受け入れて Ⅴ

 ただ今回受け入れた小学生は内観体験2回目であるということを忘れてはいけない。去年の夏奈良にある大和内観研修所での内観に母親とともに参加した。本人は去年の方が緊張して集中できたと言っていた。去年も大人に混じって一週間やっている。初めてということもありその子にとってとても大きな体験であっただろう。

 大和内観研修所の所長をしておられる臨床心理士のM氏は内観の面接者としての経験に加えてスクールカウンセラーとしての経験も豊富で、おそらく子供の内観にも数多く立ち会っておられると思う。そのときも子供の受け入れということで特別の配慮をしてくれたのだと思う。その子も去年の体験があってこそ今回も一週間通しての内観を体験できたのかもしれない。

 今回、内観コースに実際小学生を受け入れて、やはり研修所での暮らし方から内観のプログラムや面接時間の間隔など、子供にあわせた対応をもっと練っていく必要性を感じた。今回の経験を大いに活かしていきたいものだ。(続く)
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内観コースに小学生を受け入れて Ⅳ

 その子は面接者の戸惑い?をよそに一週間の内観コースを終えた。退屈したときも随分あっただろうが、いやになることもなく一週間自分でやろうとして取り組んでいたように思う。一日9回全部で50回の面接を1回も飛ばさず、面接のたびに三つのテーマで調べた(思い出した)ことを報告した。それは母父妹祖父母おじおばなど身近な人に対する自分を、小学校5年の今までについて一年ごとに区切って思い出す機会があったということだ。(小学校入学以前・小学一年・二年・三年・四年・五年というふうに区切る)
 
 それもただ思い出すということではなく①世話になったこと②して返したこと③迷惑かけたことというところで、自分を振り返ったということだ。そういう観点でそのときの場面とそのときの自分を観たということだ。それを一週間の間繰り返し繰り返しやる。テレビやマンガなど外部からの刺激のない環境で暮らしながら、自分を観ることだけをやる。そのことは必ずや、その子にとって自分を見る(客観視する)目を養う機会になったにちがいない。

 その子の感想文の中には「お世話になったことがとても多くて、自分からして返したことというのは少ししかないと思った」というようなことが書かれていた。アンケートには短期内観もやってみたいと書かれていた。その子はすでに内観人生を歩み始めているといったらいいすぎだろうか。

 その子の体験内容はその子に意識されるかどうかにかかわらず、またまわりから見て窺い知れるかどうかにかかわらず、計り知れないものだと思う。
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内観コースに小学生を受け入れて Ⅲ

 子供は言葉が少ないのだと改めて思った。それは語彙が少ないということと説明が少ないということだ。面接も1~2分で終わってしまう。その子は前に内観体験をしているので、ちゃんと面接での報告の仕方にそって話す。だけど言葉が少ないし説明もない。簡単明瞭、あっという間に終わってしまう。取り付く島がない。エッ!それだけ?という感じ。どうも勝手が違うなと思った。

 内観の面接では三つのテーマで思い出したこと(調べたこと)を報告する。状況や経過の説明とかは要らない。思い出した(調べた)そのことを報告したらいい。自分が母に世話になったことは、おもちゃを買ってもらったこと、して返したことは、そうじを手伝ったこと、迷惑かけたことは、部屋のガラスを割ったこと、そんな感じでいい。実際その子の中で具体的な場面が思い出されていたらいいのだ。どれだけ鮮明になっているかということはあるが。

 面接者の方は聴くことが主で、内観者の報告した内容についてどうこう言うということはない。ただ内観者が自分に目を向けているかどうか、集中できているかどうか、具体性があるかどうか、そんなあたりに着眼する。

 大人の面接は子供に比べると時間が長い。5分10分15分と人さまざまでその時々でも違う。話の内容もいろいろで三つのテーマについての報告も、経過や状況の説明から始まることもあり、それに結構時間がかかる。子供と大分違う。内観者の報告の仕方がどうこうということでなく、大人の面接では(面接者である)自分が話(言葉)をたくさん聞いているんだなと思った。それに比べて子供の場合は自分の聞く言葉(の数)が少ない。大分勝手が違う。

 もしかして自分の方に何か言葉(話)に依存するものがあったのではないかと思った。面接者として自分が受け取った言葉で相手を見ようとする分かろうとする。場合によって分かったとなってしまうのか。だから言葉少ない子供についてはその内(中身)がよく見えない分からない。そんな思いも出てくる。今振り返ってみると、ずっと子供ってよくわからないなみたいな思いが自分の中にあったような気がする。この辺はもう少し掘り下げて検べてみたいところだ。
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