2ndCSS「社会・人間・心の“豊かさ”を探る」~科学技術の先にあるものとは~《3》
2nd Crossover Study Sseeion (CSS)
「社会・人間・心の“豊かさ”を探る」
~科学技術の先にあるものとは~ 《3》
◆これまでの記事
第1回 プロローグ
第2回 何のための研究か? 専門化し細分化している現状《1》
第3回 何のための研究か? 専門化し細分化している現状《2》
小野 その辺はどういうふうにこう、なんて言うんですかね、狭いセクトの壁を突破されたんですか?
内藤 学部時代は指導者の指示に従ってやったけども、院生ぐらいになった時にはもうある程度自分でテーマを選べるので、自分の研究を進めましたね。まあそれがたまたま、面白かったんでしょうね。結局、教授もそれに乗ってくれて、「なかなか面白い成果だ」といって、外部にも宣伝してくれました。
小野 それが総合解析ということだったんですか?
水と大気は同じ流体、ところが・・
内藤 まだそこまでじゃないですけど。それはちょっとした新しい解析です。何が新しいか、環境問題は、今まで水の世界、大気の世界で、みんな独立していて、この内容を互いに見てみることはなかった。だけど、基礎の数式を見たらね、基本的に同じ流体の話で、係数だけが違うわけです。ところが、技術マニュアルには全く違う形の公式が出てるんですよ。なんでこんなに違う式でそれぞれ設計計算するのだろう?と不思議に思えて…。
小野 へーーー、ちょっと想像がつきませんが・・・
内藤 それで、「基礎の方程式は一緒なので、水も大気も統一して表せないか?」と 統一しちゃったんです。そしたら、後はもう設計条件が違う表だけを作っといたら、水でも大気でも、使える式が出来たというわけです。
小野 ほー、なるほどね。
内藤 それで、それまでのハンドブックのその部分を書き変えられたんですね。それでも、「おまえ大気屋なのか水屋なのかハッキリせい!」って言われてね。((笑))「でも同じ現象ですよね。流れに乗って広がっていくという、いわゆる拡散現象ですからね」それでもやっぱり、担当する研究室が異なるので、そこをクロスオーバー?するわけですから、異端ではありますね。
小野 「お前どっちや!」って、迫られたんですね。
内藤 「どっちかはっきりせんと将来困るぞ!」ってね。
小野 どっちのサイドに付くんやってことですか?
内藤 そういうことですね。どこの世界で生きていくんやってね。つまり、大学を出てからも、業界ごとに生きていくわけですから、どこに売り込んでやったらいいのか分からなくて、困るのは本人だぞ…という思いやりでもあったんですかね。
小野 なるほどね。
研究が社会的影響や意義を考慮せず
内藤 その頃から既にそんなことに出くわしましたが、その次に、さっきアカデミー生に言ってた、下水道でね、日本最初の流域下水道計画をやってみないかという話が国から研究室に持ち込まれましてね。まあ計算してみましょうということでやったら、現地の市民団体から厳しく糾弾されました。習ったばかりの最善の技術を用いて計算した水の浄化施設なのに、なんでそんなに叩かれるのか、当初は分からなかったですが、この技術を使ったときに社会にどんな影響を与えるかの配慮は全く入っていないことにその後気付かされました。
小野 それで裁判になったんですね。
内藤 そうなんです。“社会的な影響・意義”から見たらこれはどういうことになるのかと言われたら。そんなことは下水道工学では教えてくれないです。それはどんな工学でもそうだと思いますよ。技術の効率だけが勉強の対象ですから。その社会的意義などを習うところは無かったですね。それから時代が大分経ってから「テクノロジーアセスメント」というような技術の評価の学問や研究がされるようになってきたのだけど、いまでも不十分で、原発や道路、ダムなど問題になりますね。これは、技術の評価に加えて、社会的課題となるとどうしても利害が絡んできて、とても研究の範囲の議論では収まりません。
真保 そういうのと関係するか分からないんですけど、先生は「問題解決学」みたいなふうに、考えられてきたんですか?
内藤 そういうことですね。そうして、問題が現実にあるのを解決しようとしたらあらゆる関連学問研究を総動員するしかない。さっきの真保さんが言われた病理の、家畜のあの例のようにね。
真保 僕は今臨床の獣医の仕事をやっているんです。つまり現場の仕事になるわけです。そうするとね、ほんとに総合的なんです現場というのは。そこに関わる人の問題も含めてね。
内藤 そうでしょう。
真保 いくら僕がやっても、「これやったら良くなるよ」と言っても、そこの人がやろうとしない限りは全然解決しないとかね、よくあります。
それでその、やらない理由にもその人の人生がかかってきているとか、そういうことばっかりじゃないですか。でねその、“問題解決学”っていうのがあるんですか?
内藤 日本ではさっきの話にまた戻りますけど、もともと実際の問題を解決しようとして学問ができてないのでね、未だに弱いのかもしれないね。
真保 そこがね、僕はすごく興味ある。つづく
◆これまでの記事
第1回 プロローグ
第2回 何のための研究か? 専門化し細分化している現状《1》
◆CSSとは
サイエンズ研究所によるCrossover Study Session 1 プロローグ
小野 その辺はどういうふうにこう、なんて言うんですかね、狭いセクトの壁を突破されたんですか?
内藤 学部時代は指導者の指示に従ってやったけども、院生ぐらいになった時にはもうある程度自分でテーマを選べるので、自分の研究を進めましたね。まあそれがたまたま、面白かったんでしょうね。結局、教授もそれに乗ってくれて、「なかなか面白い成果だ」といって、外部にも宣伝してくれました。
小野 それが総合解析ということだったんですか?
水と大気は同じ流体、ところが・・
内藤 まだそこまでじゃないですけど。それはちょっとした新しい解析です。何が新しいか、環境問題は、今まで水の世界、大気の世界で、みんな独立していて、この内容を互いに見てみることはなかった。だけど、基礎の数式を見たらね、基本的に同じ流体の話で、係数だけが違うわけです。ところが、技術マニュアルには全く違う形の公式が出てるんですよ。なんでこんなに違う式でそれぞれ設計計算するのだろう?と不思議に思えて…。
小野 へーーー、ちょっと想像がつきませんが・・・
内藤 それで、「基礎の方程式は一緒なので、水も大気も統一して表せないか?」と 統一しちゃったんです。そしたら、後はもう設計条件が違う表だけを作っといたら、水でも大気でも、使える式が出来たというわけです。
小野 ほー、なるほどね。
内藤 それで、それまでのハンドブックのその部分を書き変えられたんですね。それでも、「おまえ大気屋なのか水屋なのかハッキリせい!」って言われてね。((笑))「でも同じ現象ですよね。流れに乗って広がっていくという、いわゆる拡散現象ですからね」それでもやっぱり、担当する研究室が異なるので、そこをクロスオーバー?するわけですから、異端ではありますね。
小野 「お前どっちや!」って、迫られたんですね。
内藤 「どっちかはっきりせんと将来困るぞ!」ってね。
小野 どっちのサイドに付くんやってことですか?
内藤 そういうことですね。どこの世界で生きていくんやってね。つまり、大学を出てからも、業界ごとに生きていくわけですから、どこに売り込んでやったらいいのか分からなくて、困るのは本人だぞ…という思いやりでもあったんですかね。
小野 なるほどね。
研究が社会的影響や意義を考慮せず
内藤 その頃から既にそんなことに出くわしましたが、その次に、さっきアカデミー生に言ってた、下水道でね、日本最初の流域下水道計画をやってみないかという話が国から研究室に持ち込まれましてね。まあ計算してみましょうということでやったら、現地の市民団体から厳しく糾弾されました。習ったばかりの最善の技術を用いて計算した水の浄化施設なのに、なんでそんなに叩かれるのか、当初は分からなかったですが、この技術を使ったときに社会にどんな影響を与えるかの配慮は全く入っていないことにその後気付かされました。
小野 それで裁判になったんですね。
内藤 そうなんです。“社会的な影響・意義”から見たらこれはどういうことになるのかと言われたら。そんなことは下水道工学では教えてくれないです。それはどんな工学でもそうだと思いますよ。技術の効率だけが勉強の対象ですから。その社会的意義などを習うところは無かったですね。それから時代が大分経ってから「テクノロジーアセスメント」というような技術の評価の学問や研究がされるようになってきたのだけど、いまでも不十分で、原発や道路、ダムなど問題になりますね。これは、技術の評価に加えて、社会的課題となるとどうしても利害が絡んできて、とても研究の範囲の議論では収まりません。
真保 そういうのと関係するか分からないんですけど、先生は「問題解決学」みたいなふうに、考えられてきたんですか?
内藤 そういうことですね。そうして、問題が現実にあるのを解決しようとしたらあらゆる関連学問研究を総動員するしかない。さっきの真保さんが言われた病理の、家畜のあの例のようにね。
真保 僕は今臨床の獣医の仕事をやっているんです。つまり現場の仕事になるわけです。そうするとね、ほんとに総合的なんです現場というのは。そこに関わる人の問題も含めてね。
内藤 そうでしょう。
真保 いくら僕がやっても、「これやったら良くなるよ」と言っても、そこの人がやろうとしない限りは全然解決しないとかね、よくあります。
それでその、やらない理由にもその人の人生がかかってきているとか、そういうことばっかりじゃないですか。でねその、“問題解決学”っていうのがあるんですか?
内藤 日本ではさっきの話にまた戻りますけど、もともと実際の問題を解決しようとして学問ができてないのでね、未だに弱いのかもしれないね。
真保 そこがね、僕はすごく興味ある。つづく
出席者 内藤正明(京都大学名誉教授、滋賀県琵琶湖環境科学研究センターセンター長)
真保俊幸(ScienZ研究所)
小野雅司(ScienZ研究所)
坂井和貴(ScienZ研究所)
片山弘子(GEN-Japan代表)
◆これまでの記事
第1回 プロローグ
第2回 何のための研究か? 専門化し細分化している現状《1》
◆CSSとは
サイエンズ研究所によるCrossover Study Session 1 プロローグ
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