雑考 Ⅰ

 相手の口から発せられた言葉が、そのまま自分の耳に届いて、その言葉を聞いているつもりでいる。また、自分の口から発した言葉は、そのまま相手の耳に届いて相手に伝わると思っている。ただ、同じ言葉でも、それに付与する意味が自分と相手とは微妙に異うぐらいに思っている。でも事の真相(?)はそんなものではなさそうだ。

 物理(学)的には、相手の言葉がそのまま空気中を飛んでくるわけではなく、相手が口から発した空気の振動(波動)が伝播してくるということのようで、それがどういうわけか耳に届いて自分の頭の中に入ると音(言葉)に変換されるということのようだ。ということは、言葉も相手の言葉を聞いているつもりで、実は自分の頭の中に自分で作っていることになる。

 自分が言葉を発する場合も、頭の中では言葉であったはずのものが、どういうわけか口から外に出るときには空気の振動(波動)に変換されている。でもそのことは意識されない。自分で発した空気の振動をまた自分の耳で聞いて頭の中で音(言葉)に変換しているから、自分の頭の中の言葉がそのまま口から外に出て行って、相手の耳にまで届くのだと錯覚する。実は相手がその人の頭の中で、こちらから発した空気の振動をどう変換してどんな言葉にして思い浮かべているのかは、原理的に分かりようがないことなのだ。

 以上、少し乱暴な論理のようだが、相手の頭の中の言葉と自分の頭の中の言葉は全く別ものだ。わざわざこんなややこしい論理を出さなくても、相手の頭と自分の頭が全く別だということは一目瞭然、だからその中に詰まっている言葉も全く別ものだというのも当然のこと。ただ、ここでは、相手の頭の中の言葉がそのまま自分の頭の中に入って来るわけではないということを言いたかったようだ。
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